われわれはどのように死ぬのが良いのか
今月(2009年8月)の初めに私の母は痴呆状態が酷くなって特別養護老人ホームに入所した。私は今日(2009/08/28)入所後初めて母親を訪ねて様子を見てきた。
母親の4人部屋は3階にあるのだが、エレベーターから出たところが広間になっていて、テーブルが沢山設置されていて入所している老人たちが普通の椅子に座るか、車椅子に座っているのだが、ほとんどの老人が何もしないでじっとしている。壁には大型の液晶テレビが置かれていて番組が写っているがほとんど見ている人はいない。互いの会話もほとんど聞かれない。ただぼーっと座っているだけなのだ。毎日こうした生活を送っているのであろう。これはなかなか凄まじい光景である。
ところで私はたまたま少し前から久坂部羊氏の『日本人の死に時 そんなに長生きしたいですか』(幻冬舎新書)を読んでいて、ここを訪れた時には半分近くを読んでいたのだが、久坂部氏の書かれていることがよく理解できた。氏が書いた小説を2冊ほど私は持っていて、ただまだ読んではいなかったのだが、氏が医者であることは知っていた。この本を読んで初めて知ったのだが、久坂部氏は介護関係の診察を行なっていたので、歳を取って自分で自分の面倒が見られなくなった人が介護されて生きるということの実態を沢山見てきて、その経験に基づいてこの本を書いたのである。氏は現代の寿命が伸びた日本人の生き様、ということは死に様を観察することになったのだが、結論を言うと「長生きすることは、実態を知るとけして幸せなことではない。」ということであった。たとえお金が沢山あってきめ細かな世話を受けることが出来る人たちであっても、「世話を受けて生きること自体が必然的に苦痛をもたらす」というのである。今まで日本人は、長生きすることはそれ自体が幸せなことであるという価値観、見方を植えつけられてきたのであるが、氏の目に映ったものは実際にはその反対こそが真実なのであった。最近は良くクォリティ・オブ・ライフ(生活の質。QOL)ということが言われるが、久坂部氏のこの本を読むと、長生きして生きていることが苦痛となる前にうまく死ぬことがQOLの最後を飾る重要な要素であることが分かるのである。
後期高齢者の医療制度が作られたが不評でなくなったようだが、久坂部氏に言わせると高齢者に対する医療というのは従来考えられてきた医療とは全く異なるものなのだ。
「今、私たちがやっている老人医療は、病気を治すための医療ではありません。
診療の対象は、老化による麻痺や機能低下、認知症(老人性痴呆)、腰痛や耳鳴り、さらには末期がんなどです。これらははっきり言って、今までの医療からは見捨てられてきたものです。治らない状態の人を、医学的にどう支えていくか、それが我々の目指す老人医療です。」(P4〜5)
こうした医療の現状について久坂部氏は次のように書いている。
「医療はその役割を果たすのに、十分に広い視野を持っていたでしょうか。とにかく命を延ばせばいいという方針の裏で、言葉は悪いのですが、『中途半端に助かってしまう人』を創り出してきたのではないでしょうか。その結果が、今の介護危機ともいえる状況です。
・・・・今、医学は大いに発展して、寿命を超えるほど人を生かすようになりました。」(P5〜6)
つまり本人がもう死んで楽になりたいと思っても、無理やり生かすことはあっても死なしてはくれないのが日本の実状なのである。日本では尊厳死が、ごちゃごちゃ変な理屈を言って認められないが、そんなのは全く意気地のないおかしな話だ。真剣に「人権」ということを考えるのなら、人間には死を選ぶ権利もあることを認めるべきであろう。
こうした状況に対しての氏の考え方は次の通りである。
「私は長寿はよいとは思いませんが、天寿は否定しません。与えられた寿命で、ほどほどに死ぬのがいいと思います。」(P6)
しかし「適当な時期に死ぬというのは、なかなか難しいことなのです。」(P20)
詳しいことはこの本を読んでもらうとして、私が一つ付け加えたいと思うのは、お金のある人はdie broke(お金を使いきって死ぬ)という生き方を実行してはどうかということである。元気なうちにお金を使って充実した人生を送り、金を使いきったら死ぬという生き方である。死ぬ時期は寿命を考えずまだまだ自分のことは自分でできるうちに勝手に尊厳死する、つまり自殺するのである。老いぼれて介護を受けて変化も何もない毎日をだらだらと生きるよりは余程ましなのではないだろうか。QOLということを言うのなら、真剣に介護など受けないで済むように死ぬことを意識して生きるべきだと私は考える。
私は余り老後の生活資金を持っていないのだが、久坂部氏のこの本を読んで老後の不安を感じなくて済むようになった。それが私にとってのこの本の最大の効用だ。
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